任意売却は住宅ローンの返済が難しくなったときに利用を考える制度です。住宅ローンを滞納した場合は自宅を競売にかけられて強制的に退去させられますが、任意売却をすると競売を防ぐことができます。さらに、任意売却とリースバックを利用すると自宅にそのまま住み続けることも可能です。
経済的な困難は、時として避けられないものです。住宅ローンの支払いは35年ほどありますが、その間に事故や病気などで急な出費が必要になったり、家族の事情などでこれまで通り働けなくなることもあるでしょう。この記事では、任意売却の基礎知識から流れ、メリット・デメリットについて詳しく解説します。
任意売却とは?
任意売却とは、住宅ローンの返済が難しくなったときに、金融機関(債権者)の「同意」を得て抵当権を抹消し、自宅不動産を売却することです。そして、残った残債は分割で返済していくことができます。「任売(にんばい)」とも呼ばれています。
任意売却は住宅ローンの返済が難しいときに利用する
任意売却は、住宅ローンの支払いが難しくなったときに利用できます。住宅ローンの返済が難しくなったときは、任意売却を検討する前に、まずは債権者である金融機関に相談してみましょう。返済金額や返済期間の見直しをしてくれる場合があります。それでも返済の見通しが立たない場合は、任意売却を検討しましょう。
一般的には、住宅ローンの返済ができなくなると、債権者によって自宅を競売にかけられてしまいます。しかし一概には言えませんが、競売よりも任意売却の方が高く売れることが比較的多く、さらに残った残債は分割で返済できるので、任意売却の方が債務者にとってメリットがあります。
任意売却ができるタイミングはいつからいつまで?
任意売却ができるタイミングは、住宅ローンの返済が困難になりそう、もしくは困難になった段階から、競売の落札者が決まる前までです。競売にかかった後でも任意売却は可能ですが、落札者が決まると任意売却はできなくなります。
しかし実際には、競売の入札が始まると任意売却の実現は難しくなります。入札が始まる前までに対処するべきでしょう。
任意売却した後は残債の返済が続く
任意売却を行った後も、売却金額が住宅ローンの残高を下回った場合は、その差額を「残債」として返済し続ける必要があります。しかし、任意売却を通じて債権者と毎月の返済金額や返済期間を交渉することで、分割で返済することができます。残った残債を分割で返済していくことができることも、債務者にとっては大きなメリットになります。
任意売却と自己破産
任意売却後に残る残債が返済不可能なほど高額である場合は、自己破産を検討しましょう。自己破産とは、財産を全て手放す代わりに、借金全体を免除してもらう手続きで、借金がゼロとなります。自己破産した後数年間(5〜7年間)は、新たな借入れができなかったり、ブラックリストと呼ばれる信用情報機関に登録されます。しかし、病気や事故などで安定した収入を得ることが難しい場合は、無理して借金を返そうとするよりも自己破産することが最適な選択となるかもしれません。
任意売却と競売の違い
任意売却と競売はどちらも住宅ローンの返済が難しくなった場合の手段ですが、全く違う手続きになります。
競売とは?
競売とは、裁判所が強制的にその不動産を公に売却する手続きです。住宅ローンを滞納したときに、債権者が地方裁判所へ競売の申し立てをすることで手続きが進みます。
競売にかけられた物件を、「競売物件」といいます。競売物件は「不動産競売物件情報サイト」で全国に公開され、オークション形式で入札を行い物件の落札者を決定します。落札価格は、市場価格の50%~60%程度になってしまうことが多くあります。
参考:不動産競売物件情報サイト 不動産執行手続の流れ(不動産執行手続の流れを閲覧できます。)
参考:不動産競売物件情報サイト
任意売却と競売の主な違い
任意売却と競売の主な違いは、その手続きを主導する主体と売却価格にあります。任意売却は債務者が主導し、市場価格近くで売却できる可能性があります。実際には任意売却対応を行っている不動産業者と相談しながら進めます。
一方、競売は裁判所が主導し入札方式で売却されます。入札者は、落札するまで物件内部を見ることができないためにリスクもあり、市場価格よりも安い価格で売却されるケースが一般的です。
任意売却 | 競売 | |
---|---|---|
主導する主体 | 債務者 | 裁判所 |
売却価格 | 市場価格に近い価格で売れる | 市場価格の50~60%程度になる |
住み続けられるか | ・任意売却のみの場合は退去する必要がある ・リースバックと併用すると住み続けられる | 強制的に退去させられる |
競売の回避策としての任意売却
競売になると自宅から追い出されてしまうだけではなく、売却価格も市場価格より低くなる可能性が高いため、任意売却で競売を回避できるのなら回避した方が良いでしょう。
たとえば、家の市場価格が2,500万円で、住宅ローンが3,000万円残っている場合、競売では1,250万円程度で売却されてしまうかもしれませんが、任意売却なら2,000万円程度(上手くいけば2,500万円)で売却できる可能性があります。この場合、任意売却を選んだ方が、750万円多く売却金を得ることができ、残債を少なくすることができます。
任意売却の注意点
任意売却を選択する際の注意点をみていきましょう。
できる限り早く専門家に相談する
住宅ローンの支払いが難しくなりそうな段階になったら、できるだけ早く金融機関および任意売却の専門家に相談しましょう。
任意売却が得意な不動産屋の見分け方は、任意売却の実績件数が多く、「任意売却取扱主任者」という資格を持ったスタッフがいるかが手掛かりになります。任意売却取扱主任者は、任意売却の専門的知識を習得した人が取得できる資格です。
任意売却は債権者との交渉が必要になるため、一般的な不動産会社では取り扱えない場合が多くあります。任意売却に慣れていない不動産会社に依頼してしまった場合は、交渉がスムーズに進まない場合がありますので注意しましょう。
任意売却には期限がある
任意売却は、住宅ローンの支払いが困難になってから競売の落札者が決まるまでの間でなければ利用することができません。
金融機関との交渉している間に落札者が決まってしまうと、任意売却は利用できなくなります。遅くとも競売の入札が始まる前までに対処するべきでしょう。
督促状や裁判所からの連絡は必ず確認すること
住宅ローンの返済が遅れると、まず債権者である金融機関から督促状が届きます。支払い催促の電話が来る場合もありますが、それらを無視すると「支払う気持ちがない」と受け取られる可能性があります。金融機関からの連絡は無視せずに、現在の状況を相談して支払い金額や支払い期間の調整をしてもらいましょう。
また、裁判所からの通知が届いた場合は、競売手続きが開始されたことを意味します。無視していても競売は進み、強制的に家から退去させられてしまいます。状況は良くなりませんので、連絡を無視することはやめましょう。
マンションの管理費や修繕費の滞納は任意売却時に清算する
マンションの管理費や修繕積立金を滞納している場合には、任意売却時に清算することが一般的です。この理由は、管理組合は次の所有者に滞納分の請求をすることができるためです。次の持ち主が滞納分を支払うことが多いため、売却金額から滞納分の金額が差し引かれます。
しかし、競売では滞納金の清算は行いませんので、管理組合は落札者へ請求するでしょう。そうすると、後日になって落札者から滞納分の金額を請求される可能性があります。
任意売却のメリットとデメリット
任意売却のメリットとデメリット、そしてリスクを最小限に抑えるための対策について説明します。
任意売却のメリット
任意売却には、次のようなメリットがあります。住宅ローンの支払いができないけれど自宅に住み続けたい場合は、リースバックの利用をおすすめします。
- 競売を回避できる
- 市場相場に近い価格で売却できる(競売より高い)
- リースバックを利用すれば自宅に住み続けられる
- 所有者の情報を非公開にできプライバシーが守れる
- 持ち出し金がいらない
- 引渡し日を相談することができる
- 引越し費用を出してもらえるケースが多い
- 残債を分割返済にできる
任意売却のデメリットとリスク
任意売却には、次のデメリットがあります。
- 債権者の同意が得られないと売れない
- 競売までのタイムリミットがある
- 自宅から引っ越す必要がある
- 残債の支払いが続く
- 共同名義人の同意が必要
- 連帯保証人の同意が必要
- 滞納3か月以上で信用情報機関に登録されるリスクがある
- 内覧や撮影など販売活動に協力する必要がある
- 任意売却をどこに頼めばいいかわかりにくい
デメリットを最小限に抑える対策
任意売却のデメリットを最小限に抑えるためには、以下のような対策が考えられます。
- できる限り早く債権者との交渉を開始し、任意売却への同意を得る。
- リースバックを検討し、自宅に住み続けられる可能性を探す。
- 専門的な業者を選択し、信頼できる任意売却会社やリースバック会社に相談する。
任意売却の手続きと流れ
任意売却の手続きには、下記の8つの流れがあります。任意売却にかかる期間は、一般的に3か月~6か月くらいです。
任意売却の基本的な手順
基本的に任意売却は、以下の手順で進行します。
STEP1 | 金融機関から督促が届く(手紙・電話) |
STEP2 | 現状を把握して金融機関へ相談する |
STEP3 | 不動産会社の選定と物件価格の査定 (住み続けたい場合はリースバック会社に相談) |
STEP4 | 債権者へ交渉し同意を得る |
STEP5 | 売却活動の開始 |
STEP6 | 不動産の売買契約を締結する |
STEP7 | 不動産の決済・引渡し |
STEP8 | 新生活のスタートと残債務の返済 |
任意売却の費用とその内訳
任意売却でも一般的な不動産売却と同じように売却の諸経費がかかりますが、任意売却の場合は売買代金から差し引かれるため、持ち出しで費用を用意する必要はありません。しかし、差し引かれる費用は支払っていることと同じですので確認しましょう。
不動産会社への仲介手数料
任意売却でも一般的な不動産売却と同じように仲介手数料がかかります。仲介手数料は成功報酬なので、任意売却が成立した場合にのみ、任意売却を仲介した不動産会社に支払います。仲介手数料は宅地建物取引業法(宅建業法)で定められています。
売買金額が400万円以下の場合は、仲介手数料は18万円(消費税別)以下と定められています。400万円を超える場合は速算式があり、売買金額×3%+6万円(消費税別)となります。
たとえば、2,000万円で任意売却できた場合は、10%の消費税込みで72万6千円となります。
仲介手数料 = 2,000万円 × 3% + 6万円 = 66万円(消費税別)
抵当権の抹消登記費用
不動産を売却するときには抵当権の抹消登記が必要で、売主が負担することとなります。この費用の内訳は、主に司法書士への報酬と税金です。
抵当権抹消の登録免許税 | 不動産1個につき1,000円(土地と建物の場合は2,000円) |
司法書士報酬 | 10,000円~15,000円程度 |
事前調査費用 | 不動産1個につき335円 |
郵送料 | 実費 |
住宅ローンを組んでいる場合は、対象となる不動産に債権者が「抵当権」を設定しています。通常は住宅ローンの返済が終わらないと抵当権の抹消はできませんが、任意売却では債権者の同意を得て、抵当権の登記を抹消します。
滞納している固定資産税や都市計画税などの税金
固定資産税や都市計画税を滞納している場合には、滞納分の総額を清算します。
滞納している管理費や修繕積立金(マンションの場合)
マンションの管理費や修繕積立金を滞納している場合には、滞納分の総額を清算します。
引越し費用
任意売却とリースバックを利用しない場合は自宅から退去する必要があります。新居での生活を始めるための引越し業者の費用や、賃貸借契約の初期費用などがかかります。
任意売却ができない場合の対応策
任意売却をしたくても、できない場合があります。任意売却ができない場合の事例とその対応策をみていきましょう。
債権者(金融機関)が認めない
債権者の同意が得られない場合は、任意売却はできません。そのため、任意売却を進める上で一番のポイントは、債権者の理解と協力です。
売却価格が低すぎて残債を返済できないと債権者に判断されてしまった場合は、承認が得られない場合があります。このような場合は、売却価格を見直したり、適正な売却価格であることを証明することが求められます。このように、金融機関との交渉には専門的な知識と経験が必要なため、任意売却の経験が多い不動産会社に相談することが大切です。
中には、任意売却を認めない方針の金融機関もあり、その場合は契約書に明記してあることが多いので確認しましょう。
共有名義人の同意が得られない
物件の共有名義人がいる場合は、全員の同意が得られないと任意売却はできません。スムーズに進めるためには、名義人全員の同意が得られるように、事前に話し合いを進めておくことが大切です。このままだと数か月以内に競売になってしまうことを理解してもらいましょう。
しかしながら、名義人が同意しない、連絡が取れない、といった困難な状況も存在します。その場合は、弁護士など専門家の助けを借りて、法的な解決策を検討することになります。
他にも、離婚しているなどで共同名義人が感情的になり、同意しないといったケースもあります。感情的にならずに冷静に、粘り強く交渉することが必要です。
任意売却の買い手がつかない
任意売却を成功させるためには、物件の買い手を見つけることが重要です。任意売却は一般市場で不動産を売却するため、「この家に住みたい」と思う人が買い手になります。
そのため、必要な部屋数が足りていなかったり、周辺相場よりも高い価格設定をした場合は買い手がつかないことがあります。もし買い手が見つからない場合は、まずは価格を見直すことになります。不動産の立地、築年数などを周辺相場と比較し、高すぎる場合は販売価格を下げることを検討しましょう。
また、物件の魅力を最大限に伝えるためのマーケティング戦略も重要です。たとえば、物件の特徴や周辺環境、リノベーションの可能性などを強調することで、幅広い買い手に検討してもらうことができます。
リースバックを併用した場合はリースバック会社が買い手になるため、買い手がつかないという心配は要りません。
内覧で買い手に気に入ってもらおう
任意売却では住みながら売却活動を行うため、買い手が物件の内覧に来ることがあるでしょう。内覧のスケジュールには柔軟に対応し、部屋の中も清潔に見えるように片付けておきましょう。内覧に来た人に良いイメージを与えることが大切です。
任意売却の相談先とサポート
任意売却を成功させるためには、不動産と法律(民法)の専門的な知識が必要です。さらに、債権者との交渉が必要なので、任意売却の経験が豊富な不動産会社に相談する必要があります。
ここでは、任意売却の相談ができる場所や、信頼できる任意売却業者の選び方を紹介します。悪質な業者から自身を守るために確認しましょう。
任意売却の相談先は不動産会社がいい
任意売却の相談は、基本的に任意売却を専門で取り扱う不動産会社がいいでしょう。任意売却とリースバックを併用したい場合はリースバック会社に相談します。一人で抱え込まず、気軽に相談してみましょう。
相談先の一覧
- 金融機関(債権者)
- 任意売却専門の不動産会社
- リースバック会社(自宅に住み続けたい場合)
- 弁護士
信頼できる任意売却業者の選び方
任意売却はスピードが大切です。問い合わせに迅速に対応してくれる不動産会社を選びましょう。対応が遅いと競売が進んでしまって任意売却できなくなる可能性があるためです。
まず、自宅の所在地が対応エリアである任意売却専門店を選びましょう。そして、ホームページで任意売却の実績が豊富であるかを確認し、口コミや評判も確認しましょう。実際にサービスを利用した人の声を確認することも重要です。
自宅に住み続けたい場合はリースバック会社に相談をしますが、リースバック会社によっては、対象エリアが大都市に限られている場合があります。リースバック専門店「イエする」は全国どこでも任意売却とリースバックの対応をしていますので、リースバックをご希望の場合はまずご相談ください。
任意売却後の生活と返済計画
任意売却が完了した後は、残った残債の返済が続くケースがあります。そして、今まで住宅ローンの返済だったものが、家賃の支払いと残債の返済に変わります。
生活の立て直しには金銭管理が欠かせません。ここでは、任意売却後の残債返済計画と、引越し費用や生活費の計画について詳しく見ていきましょう。
任意売却後の残債返済計画
任意売却で残った残債は、今後の収入と生活費を考慮し、現実的に支払える範囲で設定してもらえることが一般的です。残債の総額によりますが、一般的には毎月5,000円~30,000円程度の返済となることが多いです。
注意して欲しいことは、もし残債の返済が滞ると、持っている財産や給与を差し押さえられてしまったり、自己破産を検討することになります。そうならないように、毎月返済を続けていける範囲の金額になっているかを確認しましょう。
もし毎月の返済が不可能なほど高額である場合は、自己破産を検討することになります。
任意売却後の生活費の計画
任意売却後には新たな生活が始まります。そのための生活資金計画を立てましょう。そうしておくことで、新たな生活をスムーズにスタートすることができます。
まず、毎月固定でかかる費用を確認しましょう。家賃、残債の返済、水道光熱費、保険料、通信代などが考えられます。次に、変動でかかる費用を確認しましょう。食費、税金、車検代、ガソリン代、日用品、交際費、雑費などが考えられます。
上記を計算した上で、今後の収入見込みと支出バランスが合っているかを確認します。収支のバランスが合うように、仕事の収入を増やせるように調整したり、固定費から削減できる項目を削減していきましょう。家賃の安い物件を選んだり、携帯電話を格安SIMに変更したり、保険料を見直したり、車を手放してカーシェアに変更したり、生活にかかる費用を削減する方法はたくさんあります。生活を安定させるために、1つ1つ実行していきましょう。
自宅に住み続けたいなら任意売却とリースバックを利用しよう
住宅ローンの支払いが難しいけれど、このまま自宅に住み続けたい場合は、任意売却とリースバックを利用しましょう。この場合は、不動産会社ではなく「リースバック会社」に相談が必要です。
リースバックは、自宅をリースバック会社へ売却し、賃貸借契約を同時に行うことで、そのまま賃貸として住み続けられる仕組みです。そして将来的に資金問題が解決した場合は、また自宅を買い戻すことも可能です。
リースバックの場合は、リースバック会社が不動産を買い取りますので、買い手がつかない心配もありません。一般的な売却活動も不要になるため、内覧の対応も不要で売却活動の期間が短縮できます。
住宅ローンの返済が難しい時はイエするにご相談ください
「イエする」は、全国対応のリースバック専門店です。住宅ローンの支払いが難しい多くのお客様のご相談を受けてきた実績から、任意売却がいいか、リースバックがいいか、両方併用がいいか、最適な方法をご提案します。
現在の経済状況や、任意売却後の残債の返済計画を計算しながら、売却価格や家賃の設定を柔軟に対応できることが特徴です。まずはお気軽にご相談ください。