住宅ローンの返済ができないとき、不動産を売却して解決する方法として「任意売却」と「競売」があります。「競売」はよく耳にする用語ですが、「任意売却(にんいばいきゃく)」はあまり聞き慣れないのではないでしょうか?
債務者にとっては、競売よりも任意売却で解決できる方がメリットがあるので、任意売却で解決した方が良いでしょう。この記事では、この2つの違いは何か、それぞれの違いをわかりやすく解説します。
任意売却と競売の違い9つ
任意売却と競売は全く違う手続きです。競売は法的手段なので強制力があり、債務者側の要望などを聞いてくれる余地は無く、強制的に家から退去させられます。そんな競売を回避することができるものが任意売却です。それぞれの違いを解説します。
- 任意売却は自分の意志で売る
- 任意売却の方が売却価格が高い
- 任意売却の方が売却までに手間がかかる
- 競売は強制的に退去させられる
- 任意売却はローンの残債を分割払いできる
- 任意売却はプライバシーが守られる
- 信用情報に登録させるかされないか
- 任意売却は持ち出し金額がいらない
- 任意売却はリースバックすることで住み続けられる
1. 任意売却は自分の意志で売る
任意売却は、不動産の所有者が自分の意志で売却します。自分で不動産業者を選ぶことができますし、価格交渉や引っ越し時期を交渉することも可能です。一方、競売は裁判所が主導し強制的に売却されます。
任意売却 | 自分が主体となり自分の意志で売るため交渉の余地がある |
競売 | 裁判所が主体となり強制的に売られるため交渉の余地はない |
2. 任意売却の方が売却価格が高い
任意売却の方が競売よりも高く売却できる傾向があります。任意売却では市場価格に近い価格で売却が可能ですが、競売は物件により市場価格の50%~60%程度になる場合があります。この理由は、競売では「現状有姿(現在の状況のまま)」で売却が行われるため、購入者側のリスクが高いためです。購入者は内覧もできず、万が一不動産に不具合があった場合でも保証さないなどのリスクがあるためです。
競売は入札方式で落札されますが、裁判所は不動産鑑定士が物件を調べた評価額を参考に「売却基準価額」を定めます。この「売却基準価額」は市場価格よりも30%程度減額された価格になります。さらにそこから「最低入札価格」が定められますが、「売却基準価額」から20%程度減額した価格に設定されることが多く、このため低い金額の場合、市場価格の50%ほどで落札される可能性があるのです。
任意売却 | 市場相場の80%〜90%で売れることが多い |
競売 | 市場価格の50%~60%で売れることが多い |
3. 任意売却の方が売却までに手間がかかる
任意売却は競売に比べると手間と時間がかかります。任意売却では、自分で任意売却を専門としている不動産会社を探す必要があります。そこから債権者への同意交渉や、売却活動として購入者の内覧の対応なども必要です。一方、競売は裁判所が全てやるため、債務者は何もやることはありません。落札者が決まったら家を出ていくだけです。
任意売却 | 自分で任意売却を専門とした不動産会社を探したり、内覧対応などの手間がかかる |
競売 | 裁判所が手続きを進めるので何もやることはない |
4. 競売は強制的に退去させられる
競売は落札者が決まって代金の支払いが済んだら、自宅から出ていかなければなりません。自ら引っ越しすることが最善ですが、もし明け渡さない場合は裁判所から強制執行で不動産引渡命令が出ます。そうなると、裁判所の執行官によって強制的に退去させられてしまいます。
一方、任意売却では、引き渡し日を買い主と相談して調整できることが多くあります。仕事や学校のスケジュールなど、引っ越しまでの準備を考慮してある程度の融通を聞いてくれることが多いでしょう。また、任意売却とリースバックを併用した場合には自宅にそのまま住み続けることができます。
任意売却 | 引っ越しの日を相談できる。リースバックと併用すれば自宅に住み続けられる |
競売 | 裁判所が決めた日までに退去する。自ら退去しなければ強制退去となる |
5. 任意売却はローンの残債を分割払いできる
オーバーローンの場合は、売却代金でローンを完済することができずに残債が残ることになりますが、任意売却の場合は債権者との協議によって、その残債を分割で支払っていくことができます。一方、競売の場合は一括で残債を返済するように請求されます。この残債の金額によっては、自己破産を検討することになるでしょう。
任意売却 | 残債を分割で返済できる(毎月5,000円~30,000円程度) |
競売 | 残債の一括返済を請求される |
6. 任意売却はプライバシーが守られる
任意売却の場合は、一般的な不動産売却情報と同じ扱いで売却活動をするため、住宅ローンの支払いが難しいことや、ローンを滞納していることは公開されません。これにより、「住宅ローンを滞納した」というプライバシーを保護することができます。周囲には普通に不動産を売却しようとしている人と同じように見えています。
また、リースバックを利用した場合は、リースバック業者等が直接不動産を買い取るので、不動産を売り出していることさえも公開されることはありません。一方、競売の場合は全国に競売物件として情報が公開されるので、ローンを滞納して競売にかけられたことが全国に公開されます。
任意売却 | 一般的な不動産売却情報と同じ扱いになる。リースバックした場合は不動産を売り出していることさえも公開されない |
競売 | 全国に競売物件の情報が公開される |
7. 信用情報に登録させるかされないか
住宅ローンを3か月以上滞納した場合は、信用情報機関に事故情報として登録されます(いわゆるブラックリストといわれるものです)。任意売却はローンを滞納する前でも債権者の同意があれば利用できるので、信用情報機関に登録されることなく利用することも可能です。一方、競売は住宅ローンの滞納があって初めて手続きが進むので、信用情報機関に必ず登録されることになるでしょう。
任意売却 | 住宅ローンの滞納無く利用できれば登録されない |
競売 | 登録される |
8. 任意売却は持ち出し金額がいらない
任意売却では別途費用を用意する必要がありません。売却するときにかかる手数料などの諸経費は売却代金から差し引かれ、引っ越し費用も30万円程度までは売却代金から出してもらえる可能性があります。しかし任意売却を担当した不動産会社への仲介手数料や、抵当権抹消の登記費用などの諸経費は、売却代金から差し引かれるだけで実際には支払っていることと同じですので注意しましょう。
一方、競売の場合は、裁判所が手続きを行うので仲介手数料はかかりませんが、引っ越し費用(敷金、礼金、引っ越し代など)は自分で別途用意する必要があります。
任意売却 | 手数料などの諸経費は売却代金から差し引かれる。引っ越し費用も売却代金から出してもらえる。 |
競売 | 引っ越し費用を自分で用意する必要がある |
9. 任意売却はリースバックすることで住み続けられる
任意売却にてリースバックすることで、自宅を売却した後もそのまま賃貸として住み続けることが可能です。リースバックを利用できる条件は、アンダーローンの場合、ローン残債との差額を別途調達できる場合、そしてローン残債が残っても抵当権抹消を金融機関が同意してくれた場合です。
一方、競売の場合は退去するしかありません。
任意売却 | リースバックを利用すると自宅に住み続けられる |
競売 | 退去するしかない |
任意売却と競売の比較表
任意売却 | 競売 | |
---|---|---|
売却主体 | 自分の意志 | 裁判所が主導 |
売却価格 | 市場価格に近い価格で売却できる | 低いと市場価格の50%~60% |
手続きの手間 | 時間と手間がかかる | 裁判所が進めるので何もやることはない |
引っ越し日の調整 | 相談・調整できる | 裁判所が決めた日までに退去する |
ローンの残債 | 分割払い可能 | 一括清算 |
プライバシー | 守られる | 競売物件として公表される |
信用情報への影響 | ローンを滞納しなければ登録されない | 登録される |
持ち出し金額 | 基本的に不要 | 引っ越し費用は自分で用意する |
住み続ける可能性 | リースバックと併用で住み続けられる | 退去するしかない |
任意売却とは?
任意売却とは、住宅ローンの返済が難しくなったときに、オーバーローンでも債権者(金融機関)の「同意」を得て自宅不動産を売却することです。何について「同意」してもらうのかというと、住宅ローンの残債が残る状態でも「抵当権を抹消する」ことに同意してもらいます。
不動産を売却するためには債権者が設定している「抵当権を抹消」する必要がありますが、抵当権は住宅ローンを「完済」しないと抹消できません。このことから、ローンの残債よりも不動産の市場価格の方が低いオーバーローンの状態では、不動産は売却できません。しかし任意売却では、債権者へ残債の返済計画などを提示して、「住宅ローンの残債が残る状態でも抵当権を抹消することに同意」してもらえるように交渉するのです。
任意売却のメリット・デメリット
任意売却のメリットとデメリットをみてみましょう。
任意売却のメリット
任意売却には、次のメリットがあります。
- 競売を回避できる
- 市場相場に近い価格で売却できる(競売より高い)
- リースバックを利用すれば自宅に住み続けられる
- 所有者の情報を非公開にできプライバシーが守れる
- 持ち出し金がいらない
- 引渡し日を相談することができる
- 引越し費用を出してもらえるケースが多い
- 残債を分割返済にできる
任意売却のデメリット
任意売却には、次のデメリットがあります。
- 債権者の同意が得られないと売れない
- 競売までのタイムリミットがある
- 自宅から引っ越す必要がある
- 残債の支払いが続く
- 共同名義人の同意が必要
- 連帯保証人の同意が必要
- 滞納3か月以上で信用情報機関に登録されるリスクがある
- 内覧や撮影など販売活動に協力する必要がある
- 任意売却をどこに頼めばいいかわかりにくい
競売とは?
競売とは、裁判所が強制的にその不動産を公に売却する手続きです。住宅ローンを3か月以上滞納したときに、債権者(保証会社など)が地方裁判所へ競売の申し立てを行います。
競売にかけられた物件を、「競売物件」といいます。競売物件は「不動産競売物件情報サイト」で全国に公開され、オークション形式で入札を行い、物件の落札者を決定します。落札価格は、市場価格の50%~60%程度になることが一般的です。
まず、住宅ローンを滞納すると保証会社が金融機関に代位弁済を行います。つまり保証会社がローンを立て替えて支払うのです。そうすると、住宅ローンの債権者が金融機関から保証会社へ変わります。そして、保証会社が裁判所に申し立てをすることにより、自宅が競売にかけられて、強制的に売却されます。
強制的に自宅の所有権を失うので、家を出ていかなければなりません。競売によっても住宅ローンを完済できない場合は、残債の支払いを請求をされます。自己破産をしない限りこの請求からは逃れられないので、車や給与などの不動産以外の資産を差し押さえられる場合があります。
競売手続きの流れは、不動産競売物件情報サイトで確認することができます。
参考:不動産競売物件情報サイト 不動産執行手続の流れ(不動産執行手続の流れを閲覧できます。)
参考:不動産競売物件情報サイト
競売のメリット・デメリット
競売は、任意売却と比べるとデメリットが多いといえます。競売のメリットとデメリットをみていきましょう。
競売のメリット
競売の主なメリットは、売却までの手間がかからない、不動産会社への仲介手数料がかからない、物件の契約不適合責任がないといった点です。
1. 売却までの手間はかからない
裁判所が競売の手続きを開始すると、債務者はほとんど何もする必要がありません。裁判所が買主を見つけて、売却手続きを行います。
2. 不動産会社への仲介手数料がかからない
裁判所が全ての手続きを行うため、不動産会社への仲介手数料は一切かかりません。
3. 物件の契約不適合責任がない
競売においては、「現状有姿(現在の状況のまま)」での売却が一般的です。これは、物件に何らかの欠陥があっても、買い主はそれを受け入れなければならないという意味です。したがって、売主(債務者)は物件の状態についての責任を負いません。競売以外で不動産を売却する場合は、売主は契約不適合責任を負います。
契約不適合責任とは、契約内容に責任を持つことです。売却した不動産については、法律で次のように定められています。「民法第562条:種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる」
たとえば、購入した家に告知されていなかった雨漏りが見つかった場合は、購入者は売主に対して雨漏りの修理を請求することができます。売主が対応しない場合は、契約を解除することができたり、自分で雨漏りを修理してかかった費用を損害賠償として売主に請求することができます。
競売のデメリット
競売の主なデメリットは、売却価格が安くなる、競売の情報が全国に公表される、強制的立ち退きになるといった点です。
1. 売却価格が安くなる
競売は「現状有姿(現在の状況のまま)」で売却が行われるため、買い主側はリスク負って購入します。その分、市場価格よりも安い価格で売却されることが一般的です。
2. 競売の情報が全国に公表される
競売は裁判所が進める公的な手続きであり、競売物件の情報は入札を募るために公開されます。これは、この競売物件の持ち主が一定期間以上ローンを滞納したという事実が公開されることを意味します。
3. 強制的立ち退きになる
競売が成立した場合、物件からの立ち退きは避けられません。強制的に自分の住む場所を失うという大きなデメリットであり、新たな住居を探さなければならないストレスも感じることになるでしょう。
競売を避けるために活用できるリースバック
競売を回避できる方法として、リースバックを活用することができます。リースバックは、かんたんに言うと「売って借りる」方法で、自宅を売却した後に賃貸で自宅にそのまま住み続けることができる仕組みです。
住宅ローンを滞納して競売の手続きが始まってしまった場合でも、条件によってはリースバックして競売を回避できる可能性があります。住宅ローンが支払えなくてもアンダーローン(不動産の売却価格よりもローンの残債が少ない)の場合は問題なく利用できますし、ローン残債との差額を別途調達できる場合や、ローンの残債を返済していける見込みがある場合は、ローン残債が残っても抵当権抹消を金融機関が同意してくれる場合があります。
しかしリースバック後は家賃の支払いが始まります。家賃を滞納した場合は、今度は賃貸借契約を解除されることで自宅から退去しなければならないので注意が必要です。家賃の支払いを続けていけるのか、生活の立て直し計画と合わせてリースバックを検討しましょう。
競売物件でもリースバックを利用できますが、債権者へ交渉する時間を考えると、入札が始まる前までに対応が必要です。競売の具体的な手続きが始まってしまっている場合は、できる限り早くリースバック専門業者へリースバックが可能かどうかの相談してください。
競売をリースバックで回避できた事例
任意売却と競売どちらを選ぶべきか?判断のポイント
「任意売却」と「競売」どちらを選ぶべきかは、迷わず「任意売却」です。しかし任意売却は誰でも利用できるわけではありません。判断のポイントとしては、不動産の価値とローン残債のバランス、今後の理想の暮らし方、経済状況を立て直すことができるかになります。
任意売却できる可能性があるか、できる限り早く任意売却の専門業者に相談をしてみましょう。自宅に住み続けたい場合は、リースバックの専門業者に相談しましょう。