住宅ローンの返済が難しくなったときには、任意売却が選択肢にあがります。任意売却が適している人は、住宅ローンの支払いが困難でオーバーローン、かつローン残債が多くて自宅を売却せざるを得ない場合です。
任意売却の主なメリットは競売を回避できることですが、適切に利用できるようにデメリットもきちんと理解しましょう。この記事では、任意売却のメリットとデメリットを詳しく、わかりやすく解説します。
任意売却とは
任意売却とは、住宅ローンの返済が難しくなったときに、金融機関(債権者)の「同意」を得て抵当権を抹消し、自宅不動産を売却することです。そして、残った残債は分割で返済していくことができます。任意売却の詳しい内容は任意売却とは?住み続ける方法と売却までの流れ【専門家が解説】で解説しています。
任意売却を選択するべきケース
任意売却を選択するべきケースは、住宅ローンの支払いが難しく、かつオーバーローンでローン残債が多く、そのローン残債を補填できる資金を用意できない人です。
- 住宅ローンの支払いが難しい
- オーバーローンである
- ローンの残債が多い
- ローン残債を補填する資金を用意できない
住宅ローンの返済途中でリストラや病気などの経済的な困難に直面すると、多くの人は不動産の売却を検討します。しかし、不動産の売却価格よりもローンの残債が多い「オーバーローン」の場合は、通常の不動産売却はできません。この理由は、不動産を売却するには「抵当権」を抹消してもらう必要がありますが、抵当権はローンを完済しないと抹消できないためです。
しかし、任意売却では債権者に抵当権を抹消する「同意」をもらって不動産を売却することで、ローンの残債が残る状態でも抵当権を抹消してくれます。
住宅ローンの返済が難しくてもアンダーローンの場合は、通常の不動産売却を選択するべきでしょう。または、自宅にそのまま住み続けたい場合はリースバックが最適な選択となります。
不動産を担保とする権利です。抵当権が設定されている不動産は、一般的に回収不能と判断された場合、債権者が競売にかけることができます。
すでに住宅ローンを滞納している
すでに住宅ローンを滞納している場合は、競売を避けるためにすぐに任意売却の専門家に相談してください。住宅ローンを滞納し続けて6か月〜10か月くらい経つと、裁判所から競売開始の通知が届きます。遅くとも裁判所からの通知が届く前に、任意売却や不動産の専門家に相談して今後の対応を決めましょう。競売はデメリットが多いので、極力避ける方が良いでしょう。
競売の開始通知までの流れ
滞納からおよそ3か月で信用機関情報に通常案件から事故案件として登録されます。
さらにそのまま滞納を続けていると3か月〜6か月くらいの間に「期限の利益の喪失通知」が届きます。この通知が届くと、住宅ローンの一括返済を求められます。
さらにその返済期日までに返済しないと、保証会社へ債権者が移り競売の手続きへ進んでいきます。この次は裁判所から競売開始の通知が届くことになります。
任意売却のデメリットとリスク9つ
任意売却は競売を回避できますが、デメリットやリスクも伴います。これらを知ることで、より適切な判断ができるでしょう。
- 債権者の同意が得られないと売れない
- 競売までのタイムリミットがある
- 自宅から引っ越す必要がある
- 残債の支払いが続く
- 共同名義人の同意が必要
- 連帯保証人の同意が必要
- 滞納3か月以上で信用情報機関に登録されるリスクがある
- 内覧や撮影など販売活動に協力する必要がある
- 任意売却をどこに頼めばいいかわかりにくい
1. 債権者の同意が得られないと売れない
任意売却をするには、住宅ローン借入先の金融機関による「同意」が必要です。同意が得られなければ任意売却はできません。不動産の売却予定額などに金融機関が納得しない場合は、合意が得られるまで交渉が必要です。中には、最初から任意売却を認めない方針の金融機関もあり、その場合は契約書に明記してあることが多いので確認しましょう。
2. 競売までのタイムリミットがある
任意売却には期間制限があります。競売で開札手続きが行われ落札者が決まると、任意売却はできません。そのまま競売で売却され、強制退去となります。任意売却をするにもある程度の時間がかかるので、実際にはローンの支払いが正常な支払いができないと判断したらすぐに着手する必要があります。裁判所からの競売開始通知が届く前までには任意売却の専門家に相談し早期に対応する必要があります。
3. 自宅から引っ越す必要がある
通常は任意売却後に自宅から引越しする必要があります。引越しは心身ともに負担となる場合がありますので、心構えが必要です。子どもの学校の都合も考慮する必要があるでしょう。リースバックの場合は、その心配がなくなります。
4. 残債の支払いが続く
任意売却をしても住宅ローンを完済できるとは限りません。通常は住宅ローンが残った場合には、家を失っても残ったローンの返済が続きます。
5. 共同名義人の同意が必要
不動産が共同名義になっている場合は、共同名義人全員の同意が必要です。共同名義人と連絡がつかなかったり、同意が得られない場合は任意売却はできません。
6. 連帯保証人の同意が必要
住宅ローンに連帯保証人がいる場合は、連帯保証人の同意が必要です。連帯保証人と連絡がつかなかったり、同意が得られない場合も任意売却はできません。
7. 滞納3か月以上で信用情報機関に登録されるリスクがある
住宅ローンを3か月以上滞納した場合は、信用情報機関に事故登録される可能性があります。信用情報機関に登録されると、5〜7年間はクレジットカードが使えなくなったり、新規の借入ができなくなり、賃貸物件も借りにくくなったりします。(いわゆるブラックリストです)
8. 内覧や撮影など販売活動に協力する必要がある
任意売却では住みながら販売活動を行うため、買い手が物件の内覧に来ることがあります。内覧のスケジュールには柔軟に対応し、部屋の中も清潔に見えるように片付けておく必要があります。
9. 任意売却をどこに頼めばいいかわかりにくい
任意売却には法律の知識、不動産の知識、金融の知識、競売の知識と交渉力が必要です。そのため、一般的な不動産売却の仲介業者では対応できないことが多いです。大手の不動産仲介業者でも任意売却は対応できないところもありますので注意しましょう。
任意売却の注意点
任意売却を利用するにあたっての注意点を紹介します。
1. 任意売却ができないと競売になる
任意売却が成立しない場合は競売に進みます。債権者の同意が得られない場合や、タイムリミットを迎えた場合、共同名義人や保証人の同意が得られないなど、どれか1つでも達成できない場合は任意売却はできません。そのため、ローンの支払いが難しい場合はできる限り早く専門家に相談しましょう。そしてスムーズに進めるために、関係者とは事前に話し合いを進めておくことが大切です。
2. 売り出しても必ず売却できるとは限らない
販売活動を進めたとしても、必ずしも売却が成立するとは限りません。たとえば、不動産を買いたい人が現れない場合は任意売却することはできないため、タイムリミットを迎えると競売になります。リースバックと併用した場合は、リースバック会社が直接不動産を買い取りますので、買い手が見つからない心配はなくなります。
3. 住宅ローンがなくなるとは限らない
任意売却を行っても、住宅ローンの残債が残る可能性があります。売却価格とローン残債との間に差額が発生した場合、その差額分の債務が残ります。つまり任意売却が完了しても引き続き返済が続くことがあります。しかし、任意売却の場合は残債を分割で返済可能な額として、月に5,000円〜30,000円の返済金額が設定されることもあります。
4. ローン残債を支払えない場合は自己破産(債務整理)
ローン残債を分割できると言っても、現実的に返済が不可能なほど高額である場合には、自己破産を検討する方法もあります。自己破産とは、財産を全て手放す代わりに借金全体を免除してもらう手続きで、借金がゼロとなります。自己破産した後数年間(5〜7年間)は、新たな借入れができなかったり、ブラックリストと呼ばれる信用情報機関に登録されるデメリットがあります。
任意売却のメリット8つ
任意売却には、次のメリットがあります。住宅ローンの支払いができないけれど自宅に住み続けたい場合は、リースバックとの併用をおすすめします。
- 競売を回避できる
- 市場相場に近い価格で売却できる(競売より高い)
- リースバックを利用すれば自宅に住み続けられる
- 所有者の情報を非公開にできプライバシーが守れる
- 持ち出し金がいらない
- 引渡し日を相談することができる
- 引越し費用を出してもらえるケースが多い
- 残債を分割返済にできる
1. 競売を回避できる
任意売却の大きなメリットは競売を回避できる点です。競売は裁判所を介した強制的な売却となり、市場価格よりも低価格で売却されます。さらに競売物件情報は全国に公開され、競売後は強制的に退去させられてしまうので、債権者にとってデメリットが多いため回避するよう考えましょう。
2. 市場相場に近い価格で売却できる(競売より高い)
任意売却は不動産を市場で売却するので、市場相場の80%〜90%の価格で売却することができます。それでも、一般に売却するよりも若干ですが、売買価格は下がってしまいます。これは、任意売却は競売までの決まった短期間内に販売することとなり価格交渉が難しくなることや、契約不適合(建物の瑕疵等)の要件が除外されるなどの理由によります。
競売の場合
競売の場合は物件によりますが、市場価格の50~60%程度で売却することになります。
3. リースバックを利用すれば自宅に住み続けられる
リースバック(売った物件を賃貸として借りる制度)を利用すれば、任意売却を行っても自宅に住み続けることが可能です。債務者が金融機関との最終交渉を行い、リースバック会社と合意した金額で不動産を売却します。その後は、賃貸として自宅に住み続けながら残債を返済していくことができます。住宅ローンの支払いが難しくても自宅に住み続けたい場合は、リースバック会社に相談しましょう。
競売の場合
競売の場合は強制的に家を退去させられるため、自宅に住み続けることはできません。
4. 所有者の情報を非公開にできプライバシーが守れる
任意売却であれば、一般市場で家を売り出すだけなので、住宅ローンを滞納した事実などは明らかになりません。これにより、住宅ローンを滞納したというプライバシーを保護することができます。ただし、購入希望者が内覧に来たりしますので、売却しようとしていることは、周辺の方にわかってしまう場合があります。
競売の場合
競売になると競売情報が全国に公開されます。
5. 持ち出し金がいらない
任意売却では、別途費用を用意する必要がありません。売却するときにかかる手数料などの諸経費は、売却金から差し引かれます。
競売の場合
競売の場合も諸経費は売却金額から差し引かれますが、引越し費用は別途用意する必要があります。
6. 引渡し日を相談することができる
任意売却では、引き渡し日を買い主と相談して調整することが可能です。家族の仕事や学校のスケジュールなど、引っ越しまでの準備を考慮してある程度の融通を聞いてくれる可能性があります。
競売の場合
競売の場合は、裁判所から不動産引渡命令が出されます。それでも引越ししない場合は、強制執行の申し立てが行われ、強制的に退去させられます。
7. 引越し費用を出してもらえるケースが多い
任意売却を利用すると、売却金から引越し費用を出してもらえるケースが一般的です。だいたい30万円程度までは出してもらえる可能性があります。
競売の場合
競売の場合は、引越し費用は自分で用意する必要があります。
8. 残債を分割返済にできる
任意売却をしても住宅ローンを完済できない場合、残った残債を分割払いで返済していくことができます。今後の生活費用を計算し、現実的な返済金額を設定してもらいましょう。
競売の場合
競売の場合は残債の一括払いを求められるケースが多く、返済できない場合は自己破産等の対応を検討する必要があります。
任意売却の成功のポイント
任意売却を成功させるために知っておくべきポイントをご紹介します。
現状の確認(家計・不動産の価値・残債)
まず現在の状況を確認しましょう。現状を正確に把握することが、任意売却をスムーズに進める第一歩です。現在と将来の家計状況、不動産の市場価値、そして残っている債務の額を確認しましょう。これらの情報は、最適な方法を選択するために必要となります。たとえば、不動産の価値が想定以上に高ければ、売却後の残債が少なくなる可能性があり、そのまま自宅に住み続ける選択肢を選べるかもしれません。
理想の暮らしのために適切な方法を選ぶ
現状の確認をしたら、今後の理想の暮らしに合わせてどの選択肢が最適かを選びましょう。状況により相談先が異なりますので下記を参考にしてください。
この場合は金融機関に相談し、返済期間や返済金額などのプラン見直しができるか相談します。または、別の金融機関へ借り換えを検討します。
この場合はアンダーローンかオーバーローンかで選択が異なります。しかし、どちらの選択をしても、住宅ローンはなくなりますが家賃の支払いが必要ですので注意してください。
- アンダーローンの場合
- 自宅から引越ししても構わない場合は、不動産売却が得意な不動産仲介業者へ相談しましょう。
- 自宅に住み続けたい場合は、リースバックの専門会社へ相談しましょう。
- オーバーローンの場合
- 自宅に住み続けたくて、残債を返済できるだけの費用を別途用意できる場合は、リースバックの専門会社へ相談しましょう。任意売却とリースバックを併用できる可能性があります。
- 残債を返済できるだけの費用を別途用意できない場合は、任意売却の専門業者へ相談しましょう。
できる限り早く専門家に相談する
住宅ローンの支払いが難しくなりそうな状態になったら、できるだけ早く金融機関および不動産の専門家に相談しましょう。住宅ローンを滞納してからでないと任意売却を利用できないと案内している不動産会社がありますが、それは間違いです。任意売却は金融機関の同意があれば利用できますので、住宅ローンを滞納しているしていないに関わらず、交渉を進めることが可能です。
今後の対応を検討する時間が長ければ長いほど多くの選択肢から選ぶことができますので、住宅ローンの返済に不安がある場合はできる限り早く相談しましょう。
スケジュールの確認
任意売却はタイムリミットがある中で金融機関への交渉をするため、時間的な余裕を持って進めましょう。専門家に相談すると今後のスケジュールを立ててくれるはずです。手続きの流れをしっかりと理解して進めましょう。
任意売却の経験が豊富な会社を選ぶ
任意売却はスピードが大切です。問い合わせに迅速に対応してくれる、任意売却専門の不動産会社を選びましょう。任意売却の経験が豊富な会社は、過去のケーススタディから最適な方法を提案してくれます。また、的確なアドバイスにより債権者との交渉において有利な条件を引き出せる可能性が高まります。
家に住み続けたいならリースバック専門会社を選ぶ
自宅に住み続けたい場合はリースバック会社に相談をしますが、リースバック会社によっては、対象エリアが大都市に限られている場合があります。リースバック専門店「イエする」は全国どこでも任意売却とリースバックの対応をしていますので、リースバックをご希望の場合はまずご相談ください。
任意売却後の残債返済計画を立てる
任意売却が完了した後は、残った残債の返済が続くケースがあります。そして、今まで住宅ローンの返済だったものが、家賃の支払いと残債の返済に変わります。残債の総額によりますが、一般的には毎月5,000円~30,000円程度の返済となることが多いです。今後暮らしていく住宅の家賃と、残債の返済額、その他の生活費を支払って生活していけるか計画を立てましょう。もし毎月の返済が不可能と思われる場合は、自己破産を検討することになります。
任意売却の手続きと流れ
任意売却の手続きは下記の流れで進みます。
STEP1 | 金融機関から督促が届く(手紙・電話) |
STEP2 | 現状を把握して金融機関へ相談する |
STEP3 | 不動産会社の選定と物件価格の査定 (住み続けたい場合はリースバック会社に相談) |
STEP4 | 債権者へ交渉し同意を得る |
STEP5 | 売却活動の開始 |
STEP6 | 不動産の売買契約を締結する |
STEP7 | 不動産の決済・引渡し |
STEP8 | 新生活のスタートと残債務の返済 |
任意売却の前にできること、他の選択肢
任意売却を選択する前に、他にどのような選択肢や可能性があるかを知ることは大切です。下記の選択肢を検討することで、最適な方法を見つけましょう。
滞納する前にまず金融機関に相談
住宅ローンの支払いが難しくなりそうな段階で、住宅ローンを組んでいる金融機関へ相談しましょう。プラン変更をすることで、支払い期間や支払い金額の調整をしてくれる場合があります。これは、住宅ローンを滞納して「期限の利益の喪失」をしてしまった後は対応してくれなくなります。
住宅ローンの借り換えを検討する
金融機関が住宅ローンのプラン変更に応じてくれなかった場合は、別の金融機関での借り換えを検討しましょう。借り換えることで返済期間が伸びて月々の返済額が少なくなる可能性があります。少なくなった返済金額で返済を続けていける場合はそのほうが良いでしょう。
高齢の場合はリバースモーゲージを検討する
年齢が65歳以上(商品によっては50歳以上)の場合は、リバースモーゲージでお金を借りることもできます。自宅を担保にしてお金を借りる制度なので、自宅の所有権を持ったまま資金を得ることができます。
自宅に住み続けたい場合はリースバックを利用する
自宅に住み続けたい場合は、リースバックの利用が最適です。リースバックを利用すると住宅ローンから家賃に変わることで、毎月の支払いが少なくなるケースが多いです。しかしオーバーローンの場合は残債を返済できるだけの資金を別途用意する必要があります。自宅の価値によって変わってきますので、リースバック会社に相談しましょう。
国の生活保障の対象となるか確認する
住宅ローンの残債が多く返済が不可能な場合は、自己破産を検討しましょう。また、働くことが難しくなってしまった場合は、国の福祉を利用できる場合があります。生活福祉資金貸付制度や、生活保護の対象となるかお住まいの役所(市役所・区役所、町役場など)に相談してみましょう。
まとめ:任意売却のメリットを受けるために早く対処しよう
任意売却の大きなメリットは競売を避けられることです。任意売却と競売を比較すると、任意売却の方がメリットが大きいため、なるべく早く任意売却の専門家に相談しましょう。相談が早ければ、リースバックを利用して自宅に住み続ける方法も見つかるかもしれません。
住宅ローンを滞納してからでも間に合うことがありますので、ひとりで悩まずにご相談ください。