住宅ローンは人生の中でも大きな債務です。35年ほどの長期間におよぶ返済期間の途中では、生活や経済状況が変化することで予期せず住宅ローンが払えない状況になることもあるでしょう。
「自己破産」は住宅ローンの返済問題を解決する一つの方法ですが、住宅ローンが払えなくなったからといって、必ず自己破産をするわけではありません。自己破産は、借金の返済が現実的に不可能になったときの「最終的な手段」として考えられます。
この記事では、住宅ローンが払えない状況での自己破産を回避する方法と、自己破産後の生活について解説します。
住宅ローンが払えないイコール自己破産ではない
「このままでは住宅ローンが払えない」と感じたとき、すぐに自己破産を考える必要はありません。自己破産は一つの選択肢であり、その前に自己破産を回避できる対処法が存在します。
自己破産とは?
自己破産とは、財産を全て手放す代わりに借金全体を免除してもらう手続きで、借金がゼロとなります。
自己破産をすると、債務者は法的に借金が免除され、住宅ローンやその他の借金もすべて免除されます。自宅やその他の財産を失いますが、新たな人生をスタートすることができるでしょう。しかし、非免責債権と呼ばれる債務は免除されません。具体的には、住民税や固定資産税などの税金、水道料金、養育費、悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償などです。これらの債務は自己破産をしても免除されませんので注意してください。
自己破産には「同時廃止」と「管財事件」の2種類があり、裁判所がどちらにするかを決定します。処分する財産が無い場合は「同時廃止」、不動産などの処分する財産がある場合は「管財事件」となると考えましょう。つまり、住宅ローンがある状態(持ち家がある状態)で自己破産をしようとすると「管財事件」になります。
また、自己破産をした後は数年間(5〜7年間)、ブラックリストと呼ばれる信用情報機関に事故物件として登録されます。信用情報機関に登録されている期間は、新たな住宅ローンはもちろん、少額でも新たな借入れはできません。新しくクレジットカードを作ることもできなくなりますので注意が必要です。
自己破産にも費用がかかる
自己破産をするにも費用がかかりますので覚えておいてください。債務整理は弁護士に手続きを依頼することが一般的で、弁護士費用と、裁判所への費用がかかります。
「管財事件」の場合、裁判所にかかる費用は30~80万円程度、弁護士費用は40~80万円程度が目安となっています。経済的に余裕がない方は、法テラスに相談してみましょう。法テラスでは、経済的に余裕のない方を対象に無料の法律相談を実施しています。
自己破産できる条件
自己破産には一定の条件があり、誰でもできるわけではありません。自己破産を申し立てるには以下の条件が必要です。
- 支払いが不能な状態であること
- 借金が非免責債権ではないこと
- 借金した理由が免責不許可事由に該当しないこと
「支払いが不能な状態であること」とは
「ローンを返済できる見込みがない」と認められる状態であることです。借金の総額、資産の総額、収入などから総合的に判断されます。失業中などの一時的な理由では認められません。たとえば、リストラなどによって収入がない場合でも預貯金があってローンを返済できる状態であれば、自己破産は認められません。また、借金の額が少額である場合も自己破産が認められない場合があります。
「借金が非免責債権ではないこと」とは
「非免責債権」は自己破産をしても免責されないためです。具体的には、税金、水道料金、養育費、悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償などは、自己破産をしても支払い義務が残ります。
「借金した理由が免責不許可事由に該当しないこと」とは
借金をした理由によっては、自己破産は認められません。具体的には、ギャンブルや浪費のためにした借金や、返せないことがわかっていてした借金などです。他にも、財産を他の人に移して隠した場合や、虚偽の説明をした場合には自己破産は認められません。
自己破産をした方がいい場合
住宅ローン以外の借金も含めた負債総額が、手元の資産や収入を大きく上回り、返済が完全に不可能な状況であれば、自己破産した方が良いでしょう。また、病気やケガなどで長期的に収入を得ることが難しくなってしまった場合も、無理して借金を返そうとするよりも自己破産することが最適な選択となるかもしれません。
- 借金の総額が返済不可能なほど高額な場合
- 病気やケガで長期的に働くことができなくなった場合
自己破産すると持ち家や生活はどうなる?
自己破産をすると、全ての借金から解放されて新しい生活をスタートさせることができます。しかし、持ち家などの不動産や、車、株式、預貯金などの財産を失います。なかには資格が使えなくなる職業もあり、生活に多くの変化が起こる可能性があります。
自己破産が影響する生活の変化をみてみましょう。
- 自己破産をすると住宅ローンを含めた借金がゼロになる
- 自己破産をすると持ち家は売却される
- 自己破産をするとその他の財産も失う
- 信用情報機関に登録され、新規ローンやクレジットカードは作れない
- 資格が使えなくなる職業がある
- 連帯保証人に一括請求される
1. 自己破産をすると住宅ローンを含めた借金がゼロになる
自己破産の手続きが完了すると、住宅ローンを含むすべての借金が免除されます。住宅ローン以外にも、奨学金や車のローンも免除されます。金銭的に負担となっているローンの支払いが一掃されることで、経済的な再出発をスタートできます。
2. 自己破産をすると持ち家は売却される
持ち家などの不動産を所有している場合は、自己破産を申し立てると、全て強制的に売却されます。つまり、大切な持ち家を失い、引越しが必要になります。
自己破産する人の名義になっている不動産は全て対象となり、住宅ローンが残っているか完済済みかに関わらず、裁判所が任命する破産管財人という弁護士によって売却されます。そして、不動産を売却して得た収益は、債権者に分配されます。
3. 自己破産をするとその他の財産も失う
自己破産をすると持ち家以外の財産も失います。預貯金だけではなく、車なども売却されますし、解約返戻金のある保険は解約されます。株式も売却されて債権者に分配されます。
必要最低限の生活に必要な財産は残せる
しかし、必要最低限の生活に必要な財産は保護されます。たとえば、日常の生活に必要な家財道具や、仕事に必要な工具・機械などは、自己破産の対象外となることがあります。また、現金は99万円まで手元に残すことができます。
4. 信用情報機関に登録され、新規ローンやクレジットカードは作れない
自己破産者の情報は信用情報機関に事故情報として登録されます(いわゆるブラックリストです)。ブラックリストに載っている期間は新たな借入や、新しくクレジットカードを作ることはできません。また、既に持っているクレジットカードに関しても更新ができなくなったり、利用限度額の見直しが行われる可能性があります。
信用情報機関に登録される期間は5〜7年と言われていますが、具体的な期間や詳細は信用情報機関によって異なります。
5. 資格が使えなくなる職業がある
自己破産の手続きをしている期間中に、資格が使えなくなる職業があります。このため、対象の資格を使って仕事をしている場合は、一時的に仕事ができなくなる可能性があります。
対象となる職業に従事している方はご存知だと思いますが、自己破産者に対する条項として、それぞれの資格や職業に関する法律で定められています。ほとんどの場合は自己破産の手続きが完了すると復権し、また資格を使えるようになりますが、復権まで時間がかかる場合や、資格を使えないことで解雇されてしまう事例もあるようです。
具体的には、弁護士や司法書士、税理士などの資格や、身近な職業でも警備員や宅地建物取引士などが制限を受ける対象となっています。自己破産を検討する前に、ご自身の職業や資格に関するリスクを十分に理解しましょう。
6. 連帯保証人に一括請求される
自己破産をすると、連帯保証人に対して債務の一括請求が行われます。自己破産はあくまで「破産する人」の借金を免除する手続きですので、連帯保証人の返済義務は免除されません。
住宅ローンの借入時に連帯保証人を設定している場合は、自己破産をした際にその連帯保証人に請求されることになります。突然大きな金額を請求されることで、連帯保証人も自己破産をせざるをえない状況になってしまうかもしれません。
たとえば、夫婦のどちらかが債務者でもう一方が連帯保証人として住宅ローンを契約している場合は、夫婦ふたり共が自己破産となる事例がほとんどです。事前に連帯保証人への相談や、連帯保証人の負担を減らすための方法を検討しましょう。
自己破産手続きの流れ
住宅ローンの残債が多く支払いが不可能になった場合は、最終的に自己破産を考えることになるでしょう。持ち家を持っている方の自己破産は「管財事件」となり、6か月〜12か月かかると言われています。
「管財事件」の場合の自己破産手続きの流れをみてみましょう。
自己破産ができるかどうか、弁護士や司法書士など法律の専門家に確認しましょう。その際は「債務整理」が得意で、無料相談できる弁護士に相談することがポイントです。法律の専門家と言っても、得意としている分野が弁護士によって異なります。さらに、相談しても自己破産が適用されない場合もありますので、まずは無料相談してみることをおすすめします。
日本司法支援センター「法テラス」では、経済的に余裕のない方を対象に無料の法律相談を実施しています。
弁護士に正式に依頼すると、弁護士から債権者に「受任通知」を送付します。この受任通知を送付することで、債権者は請求や取り立てができなくなり、取り立て連絡は止まります。
弁護士が借金の総額を調査し、自己破産の申立に必要な書類を作成します。全ての借金の情報を書類に記載してもらう必要がありますので、借りている全ての借金の情報を準備し、漏れなく弁護士へ伝えましょう。
裁判所に自己破産の申立てをすると、裁判官と代理人弁護士と債務者(本人)の面接が行われます。本人は出席しなくて良いケースがあるので弁護士に確認しましょう。
裁判所から「破産手続開始決定」が出され、破産管財人が決定します。そして、本人も出席して破産管財人との面接を行います。質問された項目については、正直に答えましょう。虚偽の回答をした場合は自己破産が認められない可能性があるので注意してください。
破産管財人が持ち家などの不動産や、株式、保険などの財産を処分します。不動産を処分されることで、引越しが必要となります。そして本人も出席して債権者集会が開かれます。集会では破産管財人から債権者に対して、財産を処分した後の収支や、分配する見込み金額の報告が行われます。
自己破産で借金を免除して良いか、裁判所が許可を出します。破産者の情報が官報に掲載され、免責許可決定確定となります。これで自己破産が完了し、全ての借金から解放されます。
住宅ローンが払えない時に自己破産を避ける手段
住宅ローンが払えなくなった場合、多くの方が自己破産を恐れます。しかし、実際には自己破産まで至るケースは少ないです。自己破産を避けるための手段を紹介します。
- 住宅ローンの期間を伸ばすか借り換える
ローンを組んでいる金融機関に相談することで、返済期間を伸ばしてくれたり、一時的に返済を猶予してくれる場合があります。また、別の金融機関に借り換える方法もあります。住宅ローンの返済猶予によって解決できれば、自己破産どころか自宅も失わずに済みます。 - 自宅を売却する
自宅を売却することで、住宅ローンを一括返済する方法です。自宅を失うことで引っ越しが必要になりますが、住宅ローンから解放されます。しかし、住宅ローンを完済できるだけの価格で自宅を売却する必要があります。 - オーバーローンの場合は任意売却する
自宅の価格よりローン残高が多い「オーバーローン」の場合は、任意売却が有効です。債権者の同意のもと、自宅を売却し、その収益でローンの一部を返済する方法です。残った残債は分割で返済することができます。 - リースバックする
自宅を売却し、その後も同じ物件を賃貸として借りる「リースバック」も一つの方法です。自宅を売却することで住宅ローンを一括返済しつつ、賃貸として借りることで現在の自宅に住み続けられます。
自己破産からの再起、また持ち家を持てる
自己破産は借金から解放される一方で、その後の生活や仕事に制約が出ることがあります。しかし、堅実な生活を続けて時間が過ぎれば、再び新しい住宅ローンを組むことも可能です。
新しい住宅ローンを借りれるまでは7年以上かかる
自己破産後、新しい住宅ローンを借りるためには、おおよそ7年以上の時間が必要とされています。自己破産者の情報は信用情報機関に一定期間登録されます。この期間内は新しい借入はもちろん、住宅ローンも借りることはできません。
しかし、信用情報機関から情報が削除されるまでの期間に堅実な生活を続け、少しづつでも貯蓄を積み重ねることで、また新しい住宅ローンの審査を通過することも可能です。一度自己破産をしても、また持ち家を持つことを諦める必要はありません。
住宅ローン審査を通過するためのポイント
住宅ローンの審査を通過するためには、安定した収入、まとまった預貯金、そして信用情報の削除が必要です。
住宅ローンの審査をする金融機関は、返済能力を第一に評価します。そのため、安定した収入を得ていることが重要です。さらに、自己破産後も資産をしっかりと積み立て、貯蓄を増やす努力をしていることは、金融機関からの信頼を取り戻すための大きなポイントとなります。信用情報機関の記録は一定期間後に消滅します。その時期を把握し、前向きに生活しましょう。
自己破産からの再起を果たすためには、前向きに堅実な生活を積み重ねることです。日々の生活の収支バランスを整えて、再び安定した生活を手に入れましょう。
まとめ:住宅ローンが払えない時の最善の選択は?
住宅ローンが払えないときに適している対処方法は、個々の状況に応じて異なります。自己破産、任意売却、リースバックなど、さまざまな選択肢が存在しますが、専門家のアドバイスを受けながら、自身の状況に合った選択をすることが大切です。
住宅ローンが払えない状況になることは、決して恥ずかしいことではありません。多くの人が同じ状況に直面しており、リースバック専門店「イエする」では、住宅ローンが払えなくて困っている方の相談をいつも受けています。ぜひお気軽にご相談ください。